大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)660号 判決 1964年1月31日
控訴人 乾吉太郎
被控訴人 平田秋子
右訴訟代理人弁護士 赤井定雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
陳述したものと見なされる控訴状によれば、控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
被控訴代理人は、請求原因として、
一、被控訴人は訴外徳丸産業有限会社(以下単に徳丸産業という)に対し、同会社所有の神戸市長田区喜田天神町七丁目六番地の三五山林一畝一二歩、同所六番の三六山林一畝一八歩及び右二筆の土地上にある木造瓦葺二階建居宅一棟床面積一階七九坪二階七四坪を共同担保(いずれも一番の抵当権を設定する)として、昭和三三年一〇月下旬頃金五〇万円を、弁済期昭和三三年一一月三〇日、弁済期後の遅延損害金年五分の約束で貸与えた。
二、被控訴人は右抵当権の設定登記手続を訴外野田俊春(司法書士)に依頼した。
三、ところで、司法書士である控訴人から、野田俊春を通して被控訴人に、第一項記載の居宅一棟の保存登記を自分にさせて貰いたい、保存登記が完了すれば、直ちに関係書類を野田俊春に渡して、被控訴人の一番抵当権の設定のできるようにするとの申出でがあつたので、被控訴人はこれを了承した。
四、控訴人は昭和三三年一一月二二日右保存登記を終えた上、被控訴人の前記居宅一棟に対する一番抵当権設定登記請求権を害する目的で、同居宅一棟に対し、昭和三三年一二月四日、(イ)有限会社大橋製作所のために、同会社の徳丸産業に対する金一五〇万円の債権につき順位一番、(ロ)中島孝市のために、同人の徳丸産業に対する金一〇〇万円の債権につき順位二番の各抵当権設定に登記をした。そのため、被控訴人の第一項記載の順位一番の抵当権の設定登記は不能になつた。
五、被控訴人は第一項記載の二筆の山林の一番抵当権について二〇万円の支払をうけた。他の共同担保にかかる前記居宅一棟は、それによつて優に三〇万円以上の弁済をうけられる価額で処分されたにも拘らず、右のとおりの控訴人の不法行為により被控訴人が一番抵当権の設定ができなかつたため、処分金額は前記有限会社大橋製作所及び中島孝市の債権に弁済充当され、被控訴人はこの処分金額からは全く弁済をうけることができなかつた。そして、徳丸産業は現在他には何等の財産を有していない。
六、被控訴人が第一項の貸金残金三〇万円について弁済をうけ得なかつたのは、控訴人が被控訴人の前記居宅一棟に対する一番抵当権の設定登記請求権を故意に妨げたためにほかならない。そうすれば、控訴人は被控訴人に対し、金三〇万円を支払うべき義務があるから、被控訴人は控訴人に対し、金三〇万円及びこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日(昭和三六年六月二三日)以降支払ずみにいたるまで、民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。
と述べた。
控訴人は、本件口頭弁論期日に適式の呼出をうけたにも拘らず、出頭せず、請求原因事実に対しては答弁をしない。
理由
被控訴人主張の請求原因事実は、民事訴訟法一四〇条三項本文の規定により、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。この自白された事実によれば、被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これと同趣旨にでた原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、棄却する。
なお、控訴人は原審において、昭和三六年一〇月三〇日答弁書を提出し、これには被控訴人の請求原因事実を否認する等の記載があるが、該答弁書は控訴人によつて陳述もされず、又民事訴訟法一三八条によつても陳述したものとみなされないものである。そして、民事訴訟法一四〇条一項但書にいわゆる弁論の全趣旨とは、口頭弁論に現われた総ての訴訟資料を指すものと解されるが、この場合の答弁書は、右のとおり、控訴人が弁論準備のために原裁判所に提出したもので、これに基づいて現実にあるいは擬制的にも陳述されたものでないこと右のとおりであるから、該答弁書の記載内容をもつて民事訴訟法一四〇条一項但書を適用し、請求原因事実を争つたものとして取扱うことはできない。
そこで、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安部覚 裁判官 松本保三 鈴木重信)